Macintosh SE/30

Macintosh SE/30を購入したのは社会人としてまだ駆け出しの頃だった。購入して5年ほどで電源が入らなくなってしまい物置に入れたまま気がついたら30年以上経過していた。old macの復元も面白いテーマではあるが、仮に復元しても使い道が思い浮かばない。しばらく前から回路部分(メインボード、電源、CRTなど)はメルカリに出し、ケースにRaspberry piでも入れようかと思っていた。

ディスプレイパネル

SE/30の筐体を再利用するための問題はディスプレイパネルだ。縦横比が3:4でSE/30のディスプレイ部分にほぼ収まるディスプレイがなかなか見つからなかったが、やっとAmazonで9.7インチのTFTパネル(IPS液晶パネル 2048x1536 HDMI)を購入できた。

動作しない?

商品が到着して早速動作テストをした。この種の商品の例に漏れず商品ページの情報が全てで説明書は付属していない。HDMIケーブルを接続し、ページ情報の「5~12Vdc あるいは Mirco USB 5Vdcをお勧めます。電流は2A以上」に従って、5V2AのACアダプターをUSBに接続した。が、動作しなかった。「動作すれば基板上のLEDが緑に点灯します」とあるが点灯していない。操作ボタンを押しても何も起きない。ディスプレイも真っ黒のままで全く反応していない感じだった。

トラブルシュート1

このような商品には時々あることなので、とりあえず販売元に「動かないよ」と問い合わせ、返事を待つ間に調べた。いろいろ問題ありだった。操作ボタンへのケーブルは配線済みだったが、コネクタへの差し込み方が間違っていた。普通のコネクタは差し込み方を間違いようがないが、このコネクタはケーブル側と基板側とでピン数が違う。よく見るとスイッチ基板も本体基板もピン数が違っていて、どの位置にも挿入できるという恐ろしい代物だった。スイッチ基板はパターンから回路が推定できたので、GND線と思われる配線を調べた。本体基板のパターンは複雑だがGNDはある程度推定できる。調べてみるとGNDがつながっていない。あれれ、と思って商品写真を良く見ると差し込み方が違っていた。写真通りに差し直したところ、GNDが正しく接続されたようだった。これで良いだろうと電源を入れたが、残念、やっぱり何も起きない。

トラブルシュート2

気を取り直して今度はディスプレイへのフラットケーブルを調べた。このケーブルも配線済みで、写真中央の基板が本体基板からの白いフラットケーブルとディスプレイへの黒いケーブルを中継している。

中継基板はテープで裏返しに固定されていたので、テープを剥がして写真のようにコネクタ側を調べた。すると、なんと黒いケーブルの裏表が逆にコネクタに挿入されていた。この手のフラットケーブルは表裏を逆に入れることは可能だが、ケーブルの電極が見える面をコネクタのピンが見える側に入れる必要がある。作業者がうっかり間違えたのだろうか。ややあきれながら修正し、今度こそと電源を入れたがやはり何も起きない。

トラブルシュート3

こうなると電源が怪しい。「5~12Vdc あるいは Mirco USB 5Vdcをお勧めます」とあるが、5Vでは足りない場合が結構あることを他の製品で何度か経験している。

しかし、基板にはDCコネクタがあるもののセンター電極の極性(電圧の正負)の記載が無い。ほとんどの製品はセンタープラスだがマイナスの製品もあるのが困りものだ。基板のパターンからGNDが分かったので、DCコネクタの金属端子部分にクリップを引っかけて電源装置から9Vを送ったところ、ようやくLEDが点灯しHDMIへ送った画像が表示された。電圧を変えて調べると、6.5V(基板上で測定した電圧)以下では動作しなかった。USB5Vで動作するとは思えないがどういう設計なのだろうか。

その後

その後販売元から連絡があり「DCコネクタを使用してみてください」とのこと。この連絡への返信として「コネクタの差し違い、USB5Vでの動作不良、DCコネクタ極性の不記載」についてレポートを送っておいた。後日、商品ページを見たところ「USB 5V動作しない場合はACアダプタでを利用ください。センタープラス。」の記載が追加されていた。

TFTの電源

5Vから昇圧する

Raspberry Pi 5 は5V5Aを必要とする。動作状態を実測すると2A弱だがUSBへの電力供給のために必要らしい。手持ちの5V14Aのスイッチング電源を使ってpi5にはGPIOの5V端子に5Vを供給し、ディスプレイへは5Vを昇圧して8Vを供給することにした。

DC-DCコンバーターを改造する

ディスプレイ電源として以前入手したDC-DCコンバータ基板を使うことにした。「XL6009昇圧回路基板DC-DC 3-32V〜 5-35V出力電圧調整可能な4A電源電力変換ボード」5個で1000円ちょっとという安物である。

この商品の問題は多回転VRによる5-35Vの可変電圧範囲だ。安い部品を使っているだろうからVRの品質が心配になる。8Vに設定しても接触不良などで突然35Vが出力されると回路は簡単に破損する。「誤動作する電源は無いより悪い」のである。実際、これが原因で基板を壊した苦い経験がある。

VRを固定抵抗と交換する

心配な可変抵抗を固定抵抗に交換することにした。商品はシンプルなので回路は推定できる。制御ICのデータシートに記載されている標準回路をほぼそのまま使っていた。


データシートにしたがって可変抵抗に置き換える抵抗の値を計算した。データシートによると出力電圧Voは、2個の抵抗をR1、R2として下記の通り。

$$Vo=1.25(1+\frac{R2}{R1})$$

商品では、R2は10kΩの可変抵抗、R1は330Ωのチップ抵抗だった。R1と並列にノイズ対策と思われる積層セラミックコンデンサが設置されていた。上式からVoが8VとなるようにR2を決める。計算にはRaspberry Pi OS Full(64-bit)に標準搭載のMathematicaを利用した。

未知数の計算にはSolve関数を使った。引数として数式そのものと計算条件と解くべき変数を渡すだけである。Solveはとても強力な関数であり、遙かに複雑な連立方程式でも数学的に解ける限り答えを返してくれる。

上の式で、R1→330Ω、Vo→8VとしてR2=1782Ωを得た。これに近い抵抗は1.8kΩなので、引数を変えてR1→1.8kΩとした場合のVoが8.07Vであることを確認した。

Mathematica on Raspberry pi

Raspberry piにMathematicaが標準搭載されているのは本当に驚くべき事だと思う。サブスクリプションで年間2万円以上、買い取りでは5万円近くのソフトだ。Raspberry piは教育用だし遅いマシンだからまあいいか、とWolfram氏が考えたのかもしれない。

これは150年以上証明されていない数学上の大予想に現れる数値。piのMathematicaで計算した。書籍によると計算自体が大変困難で予想の発表から50年近く後にようやく最初の15個が計算できたとのこと。凡人には難解さの見当すら付かないが、Mathematicaは、わずか1行、リターン1発で算出する。ここでは1番目の数値を50桁まで求めたけれど、100桁でも1000桁(4秒かかった)でも100番目でも1000番目でも、平方根みたいにあっさり計算する。

Raspberry pi は5になって計算速度がさらに向上し、pi3のMathematicaの「なんとか動く」という印象から「そこそこ使える」印象になった。Mathematicaのバンドルが中止にならならないか心配になるレベル。

仕事でもプライベートでもさまざまなソフトウエアを使ってきたが、四半世紀使い続けている単体のアプリケーションはMathematicaと$LaTeX$くらい。双方とも芸術の域に達していると思う。特にMathematicaは素晴らしい。Mathematica本来の数学の世界でどれほどの能力があるかは知るよしもないが、回路設計やソフトウエア上の込み入った計算にいつも的確に答えてくれる。(光栄なことに開発者のStephen Wolframとは同い年)

piと接続した

Raspberry piからのHDMIを接続しパネルには電源装置から5Vを供給した。点灯状態での電源電流は1.37A(6.8W)で、昇圧基板の出力電圧は実測で7.97V、ディスプレイ基板の入力電圧は7.86Vだった。

SE/30のケースに入れた

バラックで動作を確認できたので早速ケースに入れた。ディスプレイパネルはオリジナルの9インチCRTより少し大きい。画面が少しケラレるため四隅が丸く見える。このおかげでオリジナル感が強調されたような気がする。思い出してみるとSE/30のデスクトップ(写真はオリジナル)は四隅が丸かった。

ケースの丸みにデスクトップを合わせたのか、ケースを含めたイメージに合わせたのか、ジョブス氏こだわりの丸みだったのかもしれない。中身は変わってしまったけれど、30年の時を経たマシンがよみがえったようで嬉しくなった。

完成したpi5マシンは、現在サーバー用にヘッドレスで使っているpi3と代替するための作業をしている。机の下のケーブルラックに転がっていたpiサーバーは、PI/30としてめでたく机上に昇格した。主な用途はやはりヘッドレスなのでディスプレイにはスライドショーを表示しようかと考えている。



Macintosh SE/30

Macintosh SE/30を購入したのは社会人としてまだ駆け出しの頃だった。購入して5年ほどで電源が入らなくなってしまい物置に入れたまま気がついたら30年以上経過していた。old macの復元も面白いテーマではあるが、仮に復元しても使い道が思い浮かばない。しばらく前から回路部...