3Dプリンタで天文時計を作った

太陽・月時計



安価な樹脂溶融積層型3Dプリンタを購入しました。面白そうだと思ったのは歯車です。機械的に動くオリジナルの仕掛けを作ろうとすると、歯車が欲しくなりますが、必要な歯数やサイズの歯車を購入することはほとんど不可能です。3Dプリンタを使うと、歯車が自在に作れます。これを使ってちょっと複雑な歯車装置を作ってみようと思いました。

太陽と月の時計の機能

壁掛け時計のムーブメントと3Dプリンタで作った歯車を組み合わせて、上の写真の歯車装置を作りました。太陽と月の現在の様子を見せてくれる装置です。天文の知識は殆どないのでネット等で調べましたが、正確さよりも面白さを優先しているので、正しい値を示す保証はありません。雰囲気を楽しむことを目標にしました。

  • 太陽の情報

写真の赤い円盤は24時間で一回転し、現在時刻の太陽の位置を示します。回転中心の小さな青い円盤は地球です。太陽円盤には扇型の窓があります。写真では黒色ですが、これは日照時間を表しています。写真の状態は夜が最も長い冬至なので扇形全体が黒くなります。夏に向かって扇型の下の円盤が回転し、徐々に赤色部分が出てきます。夏至では扇型全体が赤色になります。また、季節によって装置中心からの赤い円盤自体の距離が変わり、太陽高度の季節変化を示します。

  • 星座の情報
太陽の外側のピンクのドットが4箇所にあるリングが天球の動きを示します。写真にはありませんが、ここに黄道12星座などの名称を記載すると星座の動きが分かります。1月から12月までの数値を記入すると大まかなカレンダーにもなります。
  • 月の情報

一番外側には装置の中心から伸びるシャフトの先端に月を表す球体があります。球体は円周上を太陽とともに回転し、現在時刻の月の天球上の位置を表します。球体の片側が黄色、反対側は黒で、シャフトの回転により球体自身が1朔望月(約29日)で自転し、装置の正面から見ると月齢(満月から新月までの月の満ち欠け)を表します。写真は満月付近の状態です。

製作環境

3DCAD(FreeCAD)で3次元形状を作りました。3DCAD上の部品をSTLファイルで出力し、UltimakerCuraで3Dプリンタ用のGコードファイルを作りました。

歯車の作り方

歯車の形状を最初から自分で作るのは大変ですが、FreeCADには歯車の仕様を入力すると歯車形状を生成する機能があります。これを使って歯車を簡単に作ることができました。購入した3Dプリンタは家庭用の樹脂溶融積層型なので、高い精度は期待できません。いくつか試した結果、モジュールは0.8mm、厚さは2.5mmとしました。積層ピッチは0.2mmです。出来上がりの歯車には寸法のばらつきも出ますので、ばらつきを吸収するための遊びが必要です。試行錯誤の結果、遊び(クリアランス)は0.1mmとしました。

時計の構造

全体の構成


平歯車を組み合わせて機能を実現しました。ほとんどの歯車はZ軸方向を回転軸としてXY平面で回転します。全体の構造は2.5mm厚の歯車の積み重ねです。

時計の土台(ベース)


この図は時計の最下層です。下側の箱は装置を動かすための市販のムーブメントです。寸法をノギスで測定してモデル化しました。ムーブメントの分針の軸の先に小さな歯車をつけ作った装置につなぎました。ムーブメントの上の円盤が時計全体を支えます。円盤の中央のシャフトの構造が複雑ですが、このシャフトに他の円盤が5層重なります。ムーブメントはこの歯車に固定されて下図のように一体化するので、この円盤は動きません。


太陽の日周運動盤


ベースのひとつ上の層は、日周運動する円盤です。この円盤に固定されている内向きの歯車をムーブメントの歯車が回します。円盤の歯車が内向きなので、円盤は分針と同じ方向(時計回り)に回転します。円盤の歯車の歯数は120で、ムーブメントの分針の歯車は5歯なので、分針が24回転すると円盤が一回転(120/5=24)します。上の図の右上部分にある上向きコの字型のパーツに太陽を示す円盤がつながります。太陽はさらに一年間の高度の変化を示すため、次の天球運動の円盤ともつながります。

天球運動円盤

天球は、空を一年で一周します。太陽の年間の変化は天球を一年で移動することで起こります。この運動を再現するには、日周運動円盤1回転で1/365回転する円盤が必要です。一つの歯車で1/365に減速しようとすると大きな歯車が必要になるので、下図の緑色の4個の歯車で日周運動を1/365に減速します。4個の歯車は日周円盤に固定されていて、一番内側の歯車が日周円盤の中央軸の歯車で回転します。なお、天球運動円盤は、日周運動円盤上を同方向に回りますので、地球に対して一年で366回転します。

歯車の設計は手計算です。必要な減速比を複数の歯車で実現するため、まず因数分解します。分母、分子の数値が歯数になりますが、少なくても8歯程度ないと歯車がスムースに回転しません。また、小さな歯車で大きな歯車を回す(減速)ように組み合わせます。3Dプリンタによる歯車は形状精度が悪いので、増速すると滑らかに回りません。歯車を並べたときの長さと中心から最外周の歯車までの距離が一致しないので、隙間を埋めるための歯車が入っています。



黄道リングと太陽アーム

太陽の公転面に対して地軸が傾いているため、太陽の高度(天球上の位置)は一年周期で変化します。この運動を表すため、下のように偏心したリングを使いました。このリングが天球上の太陽の通り道である黄道に相当します。このリングは、一年で一周する歯車(上の図で一番大きな内向きの歯車)に固定された十字の梁の溝にはまっているので、リングの中心位置は固定されていますが、円周方向には滑って動くことができます。いわゆる確動カムです。



黄道リングは、ベースの中央シャフトの周りを回る太陽アーム(上の図のラック歯車がついている部品)と接続され、接続部に太陽を表す小さな太陽円盤を固定します。この様子を下方向から見上げると下図のようになります。太陽円盤には歯車がありラックと噛み合っています。

ちょっと複雑ですが、黄道リングが一年で一周すると、黄道リングの偏心により、ラックが一年で一往復します。太陽円盤はラックのストロークで半周するように歯数を決めてあります。太陽円盤は表面半分を黒く塗ってあり、その上に半円状の窓が空いたキャップを乗せてあります。これを正面から見ると写真のような円盤になります。先頭の写真は冬至の頃の最も日が短い(夜が長い)状態なので窓全体が黒くなっていますが、季節とともに太陽円盤が徐々に回転してピンク部分が多く現れ、夏至で黒い部分がなくなります。下の写真は春分(秋分)付近の状態です。また太陽円盤は偏心した太陽リングによって時計の中心からの距離が変わり、夏は外周部へ冬は中心部へ移動します。このことで太陽高度の季節変化が分かります。

星座盤

黄道リングを支えている天球円盤は、一年で一周するので、そのまま星座の動きを表しています。これに星座早見を乗せると現在の星空を示すことができますが、この装置全体の歯車構造が見えなくなってしまうので、星座盤は乗せてありません。リングの上を太陽アームが一年で一周するので、リングに1から12までの数字と、1月から12月までの黄道12星座の名前は乗せたいなと思っています。


月齢を表す月アーム

月齢は太陽と月との関係なので、太陽アームの上に月齢を表すための月アームが乗っています。月アームは満月から次の満月までの平均29.53日周期で太陽アームの上を1回転します。

月アームの先端には月を表す球があります。球は2つの半球を張り合わせて作りますが、半球の片方は黒、もう片方は黄色に着色してあります。月アームは根本の平歯車で太陽アーム根本のクラウンギアに繋がっています。平歯車とクラウンギアの歯数は同じなので、月アームが太陽アームの上を一周する間に、球が一回転します。月アームが太陽アームと同じ位置にある時は新月に相当するとので、正面から黒い半球が見えるようにします。月が移動し太陽アームの反対側に来ると、球が半回転して黄色の面が正面に見えます。これが満月の状態です。その中間では、月の実際の見え方が分かるように、三日月や半月が見られます。

月アームを動かす歯車

月アームを動かす歯車は、太陽の日周運動盤上の歯車で動きますので、太陽に対して29.53日周期を作る必要があります。歯車は整数比ですので、2953対100の歯車が必要です。ところが困ったことに2953は素数なので、複数の歯車の組み合わせを作ることができません。そこで29529対1000の減速比としました。単純計算では、このことで1年で18分程度の誤差が生じます。

歯車の設計は日周運動と同じですが、歯数以外の条件やデザインも検討して、上のような計算に落ち着きました。歯をリングの内側にするか外側にするかで同じ歯車数でも最終的な回転方向が変わります。月は太陽から遅れる方向に移動するのでそれに合わせています。

月の高度

月は天球上をほぼ黄道に沿って移動するので、太陽リングと月アームが交差する位置で月の高度が分かります。冬至の頃は太陽高度が最も低くなりますが、満月は太陽と反対側に月があるので、冬至の頃の満月は一年で最も高度が高くなります。

感想

太陽の位置は何も見なくても分かりますが、月の位置や月齢は気を付けていないとわかりません。特に新月に近い月は、昼間に出ているので気づきにくいと思います。この装置を眺めていると以前より月が身近に感じられるようになりました。




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